TOKYOおすすめレストラン 2007.03.11
フレンチ「ラ・マ○○○○ル」
東京おすすめレストラン
フレンチ「ラ・マ○○○○ル」(東京都新宿区・神楽坂)
クラブスワン評価 ★★★★★
料理 5/ ワイン 5/ デザート 5/サービス 5/ 雰囲気 5/
コストパフォーマンス 5/
実質プライス
ランチ・ディナーとも ワイン無し ¥5,000〜¥9,000
ワイン付き ¥8,000〜¥12,000
商売柄、私「アヒル」は、レストランにはたくさん行っている。
超有名シェフの超高級店で、珍重な素材を使った至福の料理がたくさん出てきて、多くのサービスマンからいたれりつくせりの極上サービスを提供されて、ランキング本の★評価が高いのは、それはそれで大満足だ。記念日にはそんなところも、やっぱり行きたい。
でもまだ無名のオープンしたての小さな店で、下町の格安フレンチで、料理もワインもデザートもサービスも全てが超イケテル店というのは・・・・・。本当に「すっごいなあ」としか言いようがない。
久しぶりにそんなフレンチに出会ってしまった。これは何年に一度かの貴重な巡り合わせであると思われる。ので、もったいないから、名前はあかさないでおこうと思う。きっとそのうち有名になるから、今は血眼で探し当てた体当たりグルメイトだけの、秘密ということでご勘弁ください。知りたい方は私「アヒル」、または神楽坂インフォメーションのM子までメール下さい!
「ねえねえ、ついに見つけた、神楽坂のイケメン・フレンチに行きませんか?」そんな誘いをしてきたのは当ブログによく登場する私のグルメイト「DJ.M」の仲間で、音楽芸術関係者の「M子」である。
「え、なに? イケメン・フレンチ? それってサービスマンがイケメンなの、シェフがイケメンなの?」私ったらまるで、目の前にニンジンをぶら下げられた馬のように食いついてしまいました。はしたないですが、これは聞かずにはいられない。だってM子は美意識も感度も高い上に、すこぶるグルメであり、私の宿命のグルメイトなのである。そのM子いわく「全員がイケメンで、しかも料理とサービスが完璧ですっ。お姉さん、絶対に気に入りますよ!」って。そっかあ、そんな天国みたいなところが有るんだあぁ。神楽坂に潜む夢の「ヘブン・レストラン」っていうこと? でもさあ、そんな名前の店って、まだランキングで見ないし、聞いたことないよなあ。大丈夫かな?
そんなこんなで、またまた駆けつけた神楽坂。この町、狭いエリアに本当に美味しいフレンチ、イタリアン、和食、バー、お菓子屋さんがひしめいている、今や激戦区。本当に侮れません。というか、通うより、住みたい!現在、私のもう一人のグルメイト、音楽マニアバーテンダーのW氏にも移住&店オープンを薦めている。それも、半分は自分のためなんだけど。
賑やかな坂下から、神楽坂上の交差点を通り越して、少し静かなエリアまで上り詰める。坂裏道の袋小路には風情のある料亭が軒を並べ、三味線を抱えた若い芸者さんたちにもすれ違う。かつて文豪が執筆に宿泊していた宿屋、音楽評論家が通い詰めたバー、素顔の芸者さんがおしゃべりする甘味どころなどが点在する。本当に古き良き町。昔むかしの前橋って、こんな風情の街だったんだろうなあ、とも思い、今まだこうやって残っている神楽坂と、消えてしまった前橋の街を思い出し、比較してちょっと複雑な気分になる。
厩橋(前橋)生まれの私の祖父は、和菓子屋の職人だった。毎朝4時には起き出して、菓子場で釜を回して小豆を煮て、何段にも重ねた木箱でまんじゅうをふかし、それから店を開けて、午後までに、次々と季節の和菓子を作っていって、自分で売っていた。まだ「絹の街」の贅と風情を残していた前橋街のかつての中心街にあった小さな和菓子屋。祖父と祖母が生き抜く手段としてはじめ、やがて洋菓子文化に席巻されていく時代の中で、自然と廃れてしまった「和菓子」という文化。
私は子供の頃から、菓子場が好きで、祖父に教わりながら、大好きな和菓子を作ってもらった。「すわま」と呼んだ鳥の子餅、私のために特別に作ってくれた、餡少なめの田舎饅頭、甘いみたらし団子・・・・。そして、春なら草餅に始まり、桜餅、桜饅頭・・・やがて節会の柏餅、夏の寒天細工、冷し羊羹、秋の栗饅頭、どら焼き、練りきり、そして冬にはつきたての餅・・・・。田舎に暮らしていた時期には、祖父に連れられて春のヨモギを摘み、桜の葉を塩漬けにし、柏の葉を洗った原体験が鮮明にあって、これは絶対に一生、忘れることはない。美しい日本、四季の風情に溢れた日本、慎ましく、たおやかで、とぎすまされた美意識を持つ、繊細な和菓子。そんな日本人本来の感覚が、今、もう無くなりつつある。私はこの中途半端な時代を本当に悲しい、情けないと思うし、取り返せない物に対するはがゆさを感じている。四季と和菓子を通じて私の感性を育ててくれた大好きだった祖父に感謝しているから、それを思うとどうしても泣けてくる。和菓子、そして和文化の素晴らしさ、そして貴重な日本の原風景と風情を失いつつあるという悲しい現実。そんなデジャブゥを神楽坂に、見る。
実は日本料理も同じ困難の時代をくぐり抜けてきているが、和食と洋食は現在も混在してなんとか生き残っている。私には、和食が進化しながら生き残ったことと、伝統文化だったはずの和菓子だけが廃れてしまったことは、「日本人の教養の欠如」が関係しているように思えて、仕方ない。傲慢だろうが、着物と絹文化、日本語についても、まったく同じ思いである。
さて、そう言いつつも、目の前の神楽坂フレンチ。
その店はひっそりと有る。ドアを開ける前にちゃんと出迎えてくれる。まるで来ることを予知していたようだ。すぐにコートをあずかり、スムーズにテーブルに案内されて、イスを引かれる。見渡す店内はこじんまりとしていて、すべてがみがき抜かれており、家具たりとも備品たりとも、サービスに必要な台やテーブルすら、一切に無い。すべてが整然としており、清潔感に溢れ、照明は昼のように明るいまま。内装コンセプトと照明のルクスがマッチしているから、これはこれでベストマッチなのだ。
小さなテーブルがたった20席。でもほどよく目隠しされていて、とてもプライベート感が有って、隣席が気にならない。真ん中に慎ましく構えた厨房は、パントリーを兼ねているのに6畳足らずの狭さ。小さな覗き窓があって、厨房内は整然として、ピッカピッカ。この小窓は3方に付けられており、シェフが店内の様子をうかがうのはもちろん、ゲストはシェフが料理をしている一所懸命な気配を感じることができるものだ。私の席からは、残念ながらシェフの顔は見えなかったが。
そして、イケメンどころではないです。たった二人しかいないサービスマンはサービスマンとしてものすごくカッコイイ。繊細で温かくユニークな雰囲気を持った、とても魅力的な男性スタッフだった。品の良いジョークのほどけ具合、会話の間、もう最高。自分もこんなジョークをほどよく受け取れる大人で良かったわあ!と思えるハイクオリティなスタッフだけである。もちろんアイキャッチも100%完璧。注文の聴き方、受け方、持ってくるタイミング、磨き抜かれたカトラリーとグラス、サービスセッティングのさりげなさ、水を継ぎ足すタイミングまで、すべて、完璧。しかも超多忙な仕事の合間に、シェフの作ったばかりの料理の入ったフライパンをゲストに見せに走り、料理を説明しながら、適度に明るいジョークを飛ばし、焼きたてのパンを途切れること無く補充し、チーズを売りながらデザートを用意し、席を立つときはイスを引いて、先回りしてキャッシャーに回り、間髪入れずにクロークから間違いないコートを出してくる。たった二人で20席、しかも満員1.5回転のフレンチを回すには、実はマラソンと同じくらいの体力がいるし、気も疲れるだろう。ゲストに見えない場所は汗だくで小走りして、厨房でシェフと真剣に合図を送り合うが、まったく客席では焦っているようにも苦しそうにも見せず、涼しそうな顔をしてゲストを笑わせ、リラックスさせているのだ。しかも、料理は必ず、同テーブルは同タイミング出てきて、そのタイミングを計るのも、並大抵の技ではないだろう。二人のハンサムで穏やかなサービスマンが、厨房のドアを開けて入った途端に、ものすごく厳しい形相の「プロ意識に満ちた男」の顔になって、料理と勝負するシェフとさらに格闘しているのを、私は見逃さない。ただし、ドアを出て客席を踏んだ途端に、もう、最高のイケメンだ!
「どうですか、お姉さん。なんだか良いでしょう、この店。まだ出来たばかりの店なのに、全然予約が取れないんですよ。私の友だちもみんなここのファンで。」「うん、脱帽ね。しかも本当に美味しいじゃないですか!!! 全部の料理が私にはサプライズだよ。初めて食べる組み合わせのものばかりだし。なのにすっごい完成度が高いのね。料理に隙がない、何の落ち度も見つからないのよ。こんなのって、あり得ないでしょうねぇ。まるでマジックよ。」「ふっふっふっまだまだですよ。デザートもチーズも。見たことも食べたこともないものばかりですから。それでね、帰り際に、店の外にあった小さな窓から今まで顔を見せなかった超イケメンシェフが顔を出して見送ってくれるっていうサービス付きで・・・・・。」「それ以上は言わないでね。私のお楽しみが無くなるじゃないですか。この幸せを、邪魔しないで!」
料理はすべてチョイス式。4,500円のコースが前菜+メイン1品+デザート。6,800円コースが前菜+メイン2品+デザート。他に8,500円の「シェフお任せコース」が有る。前菜はとても前菜とは思えない素晴らしい完成度の料理ばかり、しかもたっぷりと量がありこれだけでも充分だ。いわんや、メイン料理は普通のフレンチレストランの2倍は有りそうな、すっごい大量である。でも盛りつけも美しく、サプライズなマジック料理ばかり。そしてとてもさっぱりとした上質なソースで、全く胃がもたれなかった。実はグルメなのに胃が弱い私が、食後まで後味と後胃が良くクリアできるフレンチは、素材もオイルも調理方法も、とても上質だという尺度なのだ。味と見かけは良くても、質のあまり良くない素材を使った料理と調理だと、翌日まで胃が不愉快な私の身体なのだ。
「あっ・・・・お姉さん、このフグの白子の焦がしバターのソテー・・・・味、ヤバすぎ。」「M子さん・・・それは禁断の味でしょう・・・ちょっとちょーだいね! でね・・・私のイカのブイヤベース風テリーヌも、かなりヤバイ。危ない感じ・・・。なんでこんな味がするのか、まったくわかんないわ。」前菜ですでにノックアウトされた。
そしてメイン料理は二人とも鴨料理。種類と味は変えてみた。私は奮発してプラス料金の、フランス製のシャラン鴨のソテーにしてみる。これはかなり贅沢な一品のはず。でもM子のカレー味の鴨というのも、なんだろう?って感じで気になります・・・・。やがてサービスマンが、普通は三人分ぐらい有りそうなシャラン鴨の固まりが香ばしそうに焼けて油がジュージューいってる使い込んだフライパンを持って、嬉しそうに走って来た。「これがたった今、シェフが焼き上げたばかりのシャラン鴨です。美味しそうですよね?熱いうちに切ってきますから!あっ写真を撮りますか?」ヤバイ大きさである。しかも焦げ具合が最高の出来!よだれが出そうなのをこらえて、かろうじてシャッターを切る。この店では写真撮影も大歓迎。高級店では断られることも多いが、こんなに楽しい雰囲気ならシャッター音がするのも当然、他のゲストも誰も文句を言わない。静かに食べている人、神妙に話し込んでいる人は、誰もいないのだ。ゲスト全員がとても楽しそうに笑って、声も大きく出している!そしてみんな料理に集中し、ワインを楽しみ、写真を撮りながら、他のテーブルの料理を指さしながら「あれも美味しそうっ!」って褒めあっているのだ。隣のテーブルと友だちになれそうな勢いだが、それを仲介しているのは「楽しいサービスマンたち」なのである。賑やかな店にありがちな厚かましさや鬱陶しさは、一切に、無い。
デザートは私が2色のグレープフルーツのジュレのハチミツソース、M子は熱いとろとろチョコレートムースにビスタチオのアイスクリームがけ。チーズは今日開封した新品のフランスチーズ10種から、盛り合わせで好きなだけ。美味しい手作りのパンが付いている。デザート後の小菓子は無い。というか多分、そんな小細工はこの店にはいらないのだ。ぶれない軸の料理の真髄が、どんっ!!と有るから。
「お姉さん。美味しいものって、幸せだけど。終わる時っていうのが切ないですねぇ。まるで恋人と別れを惜しむような、さよならタイムの気分です・・・・・。」とM子がシュンとしている。「そうねえ。私もなんだか名残惜しい気持ちだわ。こんな感傷的なデザートタイムは初めて。」でもこれは終わりではなく、新しいスタート。きっとここから何かが始まると、いつも先を信じていたい、私だ。
「どうも有り難うございました!楽しんでいただけましたか?」
帰り際、元気な若い、本当にイケメン!のシェフが、小窓かと思った外ドアをあけて厨房から外通りに飛び出して来た。丁寧に、ご挨拶をしてくださる。私なんかに・・・・なんだか恐縮です。
「美味しかったです。本当に幸せな時間でした。有り難うございました。」
こちらの方が、謙虚にお礼を言いたくなる。しかもあまりに安かったです。毎日、フレンチ食べたい私たちにとっては、とても有り難いことです。
このシェフはお客様に直接お礼が言いたいから、こんな建物の作りにしてあるのだ。料理との格闘を終えたディナータイムの最後の最後に、やっと安心して、一人一人に挨拶ができるのだなあ、と思う。その熱い思いに、なんだか胸がじんっと来る。本当になんて素敵な、なんていう男前のシェフなんだろう。サービスマンももちろん素敵だど、やっぱりここはこのシェフの店。顔なんかじゃなくて、自分の店を愛するその熱い心意気が、本物の「イケメン」だ。
なんだかちょっと感傷的な、M子と私の神楽坂ディナータイム。
きっとまた、あの「ヘブン・レストラン」に行きたいよね!
自分の守るべきものを愛する力と、勇気と元気を貰いに!
(レポーター アヒル)

